導入|前回の記事から、一歩踏み込んで
前回の記事では、育成年代の怪我に対してどう向き合うか——親や指導者の対応が、子どもの回復や怪我への姿勢に大きく影響するという話をしました。

では、そもそも怪我を「起こさないため」に何ができるのか。
ここで少し考えてみてほしいことがあります。
メッシとクリスティアーノ・ロナウド。サッカーを知っている人なら誰もが知るこの二人に、共通していることがあります。それは、長いキャリアを通じて大きな怪我をほとんどせず、トップレベルでプレーし続けているということです。
偶然ではないと思います。超一流の選手ほど、自分の身体の使い方を熟知しており、身体をバランスよく、効率よく動かすことができる。それが怪我の少なさに繋がっているのではないでしょうか。
良い選手は、怪我をしない。
これは才能の話ではなく、身体の使い方の話です。そしてそれは、育成年代から意識することができる。
ウォームアップ、身体のケア、負荷の管理——怪我予防と聞いてこういった言葉が浮かぶかもしれません。もちろんそれらも大切です。ただ、今回私が最も伝えたいのは、もう少し根本的なことです。
「何を鍛えるか」ではなく、「どう使うか」。
この視点が、育成年代の怪我予防において特に重要だと思っています。
Acute Injuryについて——起きてしまったものは、正しく治す
前回の記事で紹介した通り、怪我には大きく二種類あります。
接触や衝突、転倒によって起きる急性の怪我(Acute Injury)は、正直なところ、完全に防ぐことは難しい。対人プレーの多いサッカーでは、どれだけ準備をしていても起きてしまうことがあります。
ただ、「起きてしまったものは仕方がない」で終わらせてはいけない部分があります。それは、正しいリカバリーの方法を知っているかどうか、です。
捻挫ひとつとっても、適切な処置と回復のプロセスを踏むかどうかで、その後の身体への影響は大きく変わります。「少し経ったら痛みが引いたから大丈夫」と自己判断して復帰し、同じ箇所を繰り返し怪我する——こういったケースは珍しくありません。
急性の怪我をした場合は、必ずドクターやフィジオセラピストなど専門家の意見を聞いてください。「しっかり治す」ことが、次の怪我を防ぐ最初のステップです。
毎日練習があった、あの頃のこと
少し、自分の経験を話させてください。
日本の中学・高校時代、部活動には週に一日もオフがない時期がありました。雨が降っても体育館練習。テスト期間の最中も練習。夏休みも冬休みも、オフシーズンという概念がほとんどなかった。
そういう環境の中で、チームメイトにはシンスプリント(脛骨過労性骨膜炎)を抱えながら練習している選手が何人もいました。足の甲——第五中足骨の疲労骨折をしてしまった選手も、一人や二人ではありませんでした。僕も股関節のグロインペインや捻挫を繰り返す高校生活でした。
今思えば、あれは怪我が多発していたのではなく、怪我が多発せざるを得ない環境だったのだと思います。身体が回復する時間を与えられないまま、負荷だけが積み重なっていた。
また、当時の自分自身も「なかなか身体が大きくならない」と悩んでいました。成長期に必要な休息と栄養が十分でなければ、身体はうまく育ちません。当たり前のことですが、そのことを誰も教えてくれなかった。
休息もトレーニングの一部である——その認識が、当時の環境には欠けていたと思っています。
Overuse Injuryの本質——「使いすぎ」の前に考えてほしいこと
今回最も伝えたいのは、慢性的な怪我(Overuse Injury)についてです。
もちろん、単純に練習量が多すぎて身体を酷使してしまうケースはあります。これは負荷の管理の問題で、適切な休息を取り入れることで改善できます。
ただ、もう一歩踏み込んで考えてほしいことがあります。
同じ部位を、何度も繰り返し怪我している選手はいませんか?
右膝をまた痛めた。左の股関節がいつも張る。同じ場所ばかりが問題になる——こういう場合、単純に「その部位が弱い」「使いすぎている」という話だけではないことが多いのです。
身体のどこかのバランスが崩れていて、特定の部位に負荷が集中してしまっている可能性があります。
本来は全身で分散されるべき負荷が、一箇所に偏ってかかり続ける。だから同じところが繰り返し悲鳴をあげる。
これは「体の使い方」の問題です。
大切なのは、身体をバランスよく使えること
では、どうすればいいのか。
シンプルに言うと、自分の身体をなるべくたくさんの部位を使って動けるようになることが大切です。
特定の筋肉や関節だけに頼らず、全身をバランスよく使って動けるようになることで、一箇所への過度な負荷を避けることができます。
例えば、股関節をうまく使えていない選手は、膝や腰にその分の負担がかかりやすくなります。体幹が安定していなければ、足首や膝が余計な動きを補正しようとします。サッカーの動きの中で、「本来使うべき部位」が使えていないとき、別の部位がそれを肩代わりしている——そういう構造で慢性的な怪我は起きていることが多い。
だから「膝が痛いから膝を鍛える」というアプローチだけでは、根本的な解決にならないことがあります。
痛みが出ている場所が、必ずしも問題の原因とは限らない。
これは、身体の怪我を考えるうえで非常に重要な視点です。
日常の「立ち方」「歩き方」から見直す
では、どこから取り組めばいいのか。
答えは意外なほどシンプルで——日常生活の動きから始まります。
立ち方、歩き方、座り方。これらの何気ない動作の中に、身体のバランスや使い方の癖が現れています。片方の脚に重心が偏っている。歩くとき膝が内側に入っている。座るとき常に同じ方向に体が傾く——こういった習慣が積み重なって、特定の部位への偏った負荷につながっていきます。
怪我が多い選手ほど、この日常動作を見直すことが大切だと感じています。サッカーのトレーニングの前に、まず「普段の身体の使い方」に目を向けてみてほしい。
保護者の方にできることとして、お子さんの日頃の姿勢や歩き方を少し意識して見てみることをお勧めします。気になる点があれば、スポーツに詳しいフィジオセラピストに相談してみてください。トレーニングフォームや動作の癖を専門的な目で見てもらうことが、慢性的な怪我の予防において非常に有効です。
まとめ|怪我予防の本質は、「どこを鍛えるか」ではない
・休息も立派なトレーニング
・体の使い方を学ぶ
・自分の体を知る
・良い選手は怪我をしない
怪我を防ぐために大切なことを、最後に整理します。
急性の怪我は完全に防げないからこそ、起きたときに「正しく治す」ことが次の怪我を防ぐ第一歩です。
慢性的な怪我については、負荷の管理と十分な休息が基本ですが、それ以上に「身体の使い方」に目を向けることが重要です。同じ部位を繰り返し怪我する選手は、身体のバランスに何らかの偏りがある可能性を疑ってみてください。
「痛い部位を強くする」のではなく、「身体全体をバランスよく使えるようにする」。その意識が、育成年代の怪我予防の核心だと私は思っています。
そして、日常の立ち方・歩き方から見直すことが、その出発点になります。
サッカーが上手くなることと、怪我をしにくい身体をつくることは、矛盾しません。むしろ、身体をバランスよく使える選手こそが、長く、より高いレベルでプレーし続けることができる。
ここで一つ、疑問が浮かんだ方もいるかもしれません。
「身体の使い方を改善する」って、具体的に何をすればいいの?
Glocal Footballのトレーニングでは、毎回必ずコーディネーショントレーニングを取り入れています。コーディネーションとは、「自分が思った通りに身体を動かす能力」のことです。
バランス、リズム、空間認識、反応——これらを複合的に刺激するトレーニングを通じて、身体の各部位をバランスよく使えるようにしていきます。
特定の筋肉を「鍛える」というよりも、脳と身体の連携を高め、動きの質そのものを底上げするイメージです。怪我予防はもちろん、サッカーのパフォーマンス向上にも直結します。
「うちの子、同じところばかり怪我をする」「なんとなく動きがぎこちない」と感じている保護者の方は、ぜひ一度Glocal Footballのトレーニングを見に来てください。

