12. なぜサッカー育成は国によってこんなに違うのか― 日本 と ニュージーランド を軸に見る、育成の考え方と文化

サッカーは世界共通のスポーツですが、子どもの育て方となると、その考え方は国によって驚くほど違います。
どの年齢で何を大切にするのか。
勝つことと育てることをどう両立させるのか。
大人はどこまで導き、どこから子ども自身に任せるのか。

こうした違いは、単なる指導法の差というより、それぞれの国の文化や価値観の違いとして表れているように感じます。

Glocal Football の視点でこのテーマを考えるとき、特に興味深いのが日本とニュージーランドです。どちらの国も、子どもを長い目で育てることを大切にしていますが、その支え方にははっきりとした違いがあります。さらに スペイン、イングランド、ブラジル に目を向けると、「良い育成」とは何かが国によってかなり違うことが見えてきます。 

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日本 の育成にある「一貫性」という考え方

日本の育成の特徴をひとことで言えば、長い時間をかけて、できるだけ一貫した形で選手を育てようとすることにあると思います。JFAは、代表強化、ユース育成、指導者養成、グラスルーツを結びつけた“四位一体”の考え方を掲げながら、国全体で共通の方向性を持って育成を進めようとしています。個々のクラブや指導者の工夫はもちろんありますが、その土台には「日本としてどんな選手を育てていくのか」という共有された考え方があります。 

JFAアカデミーの考え方にも、その姿勢はよく表れています。そこでは、子どもは小さな大人ではなく、年代ごとに適した環境や関わり方が必要だとされています。また、早い時期に選ばれたかどうかだけで将来が決まるわけではなく、成長には個人差があることも前提として考えられています。つまり日本の育成は、早く完成させることよりも、順序立てて土台を整えながら伸ばしていくことを重視しているのです。 

この考え方には大きな強みがあります。育成の方向性が見えやすく、何を積み上げていくべきかを共有しやすいことです。その一方で、一貫性があるからこそ、子ども一人ひとりの成長スピードや個性を、周囲の大人が丁寧に見ていく姿勢も同じくらい大切になるように思います。 

自身の経験から感じるもの

僕が日本で育ってきて感じることは、小学生ー中学生にかけては戦術的なことは教えずに、とにかく「個」の育成に励むチームが多く見られました。

SNSでよく見られる日本のドリブルのトレーニング風景などは、世界の人からするととてもユニークに見られているみたいです。

良い面としてはボールの扱いが上手な技術的な選手が多く育ちます。一方で、戦術的な理解度が遅れるという課題も潜んでいます。

ニュージーランド の育成にある「急がせない」という考え方

ニュージーランドの育成を考えるうえで欠かせないのが、NZ Football の「Balance is Better」という考え方です。ここで重視されているのは、子どもを早くからひとつの型にはめすぎないことです。早期専門化が必ずしも長期的な成長につながるわけではないこと、子どもの頃の成功がそのまま大人になってからの成功を意味するわけではないこと、そして勝利だけを追いすぎると本来の成長を見失いやすいことが、はっきり示されています。 

ニュージーランドでは、サッカーを早く始めること自体は大切にしながらも、それだけに絞りすぎないことが勧められています。他のスポーツを経験することは、身体の使い方の幅を広げるだけでなく、ケガの予防や、長く競技を続けるうえでもプラスになると考えられています。こうした考え方の背景には、「子どもが早く結果を出すこと」よりも、「大人になるまで成長し続けられること」を大切にする視点があります。 

もちろん、ニュージーランドは単にのんびり育てようとしているわけではありません。National Curriculum では、共通のプレースタイル、指導者育成、国際舞台で戦える選手の育成が明確に打ち出されています。つまりニュージーランドは、「子どもを急がせないこと」と「将来につながる道筋を作ること」を両立させようとしている国だと言えます。 

日本 と ニュージーランド は、何が似ていて何が違うのか

日本とニュージーランドを比べると、まず共通しているのは、どちらも育成を短期的なものではなく、長いプロセスとして捉えていることです。目の前の試合結果だけで選手の価値を決めるのではなく、将来につながる成長を大切にしようとしています。そういう意味では、両国とも「長い目で育てる」ことを重視していると言えます。 

ただ、その“長い目”の中身は少し違います。
日本は、育成の流れを整理し、できるだけ一貫性を持たせながら積み上げていくことに重きを置いています。対してニュージーランドは、子どもの成長には個人差があることを前提に、早くから絞り込みすぎないことを特に大切にしています。言い換えれば、日本は「どう育てる仕組みを整えるか」に強みがあり、ニュージーランドは「どう急がせずに伸ばすか」に強みがあるように見えます。 

この違いは、保護者や指導者の関わり方にもつながります。
日本では、継続的な努力や積み上げを支えることが重視されやすく、ニュージーランドでは、子どもがサッカーを好きでい続けられることや、自分のペースで伸びていけることを守る姿勢がより前面に出やすい印象があります。どちらも子どもの未来を考えているからこそ生まれる違いであり、そこに国ごとの育成文化が表れているように思います。 

5か国を並べると、育成の違いが見えやすい

ここまでの内容をシンプルに整理すると、5か国の育成には次のような違いがあります。細かい制度を覚える必要はありませんが、「それぞれの国が何を大事にしているのか」をつかむだけでも、育成を見る視点はかなり広がります。 

スペイン:技術だけでなく、判断力を育てる

スペインは、ボールを大切にする国というイメージが強いですが、その本質は単なる技術の高さだけではありません。ボールを持ったときに何を選ぶか、どこに立つか、いつ前進し、いつ落ち着かせるか。そうした判断を自分でできる選手を育てようとしているのがスペインの特徴です。つまり、技術と同じくらい「ゲームを理解する力」が重視されているのです。 

これは僕がスペインでサッカーをしていた時に強く感じた衝撃の一つです。パス回しばかりに目が行きがちですが、スペイン人の戦術理解度の高さには驚かされました。

イングランド:制度の力で育成を支える

イングランドの強みは、育成を支える仕組みが非常に整っていることです。EPPPは、年代別の育成フェーズ、試合、教育、コーチング、選手管理までを含んだ長期戦略で、「より多く、より良いホームグロウン選手」を育てることを目的としています。同時に The FA では、安全な環境や自由なプレー、個人の成長も重視されており、管理だけで終わらない育成を目指していることが分かります。 

日本人の方はぜひ。

ブラジル:創造性や感覚を大切にする

ブラジルには、フットサルやストリートに近い環境の中で、自然にボールに親しんでいく文化があります。その中で磨かれるのが、狭い局面での技術や、ひらめき、即興性です。FIFAの比較研究では、ブラジルはスペインよりも正式な組織練習の開始がやや遅い一方、その後の練習量や実戦経験は多く、フットサルも大きな役割を果たしているとされています。さらに近年は、CBF が指導者養成や育成年代の大会整備を進めており、伝統的な創造性の土壌に制度的な支えを加えようとしています。 

国が違えば、「良い育成」の意味も変わってくる

こうして並べてみると、それぞれの国は単に違う方法を取っているのではなく、そもそも「何を良い育成と呼ぶのか」が少しずつ違うのだと分かります。
日本は一貫性を、ニュージーランドは成長のペースを、スペインは判断力と技術を、イングランドは制度的な支えを、ブラジルは創造性や感覚を大切にしている。そこには、その国がどんな選手を育てたいのか、そして子どもにどう関わりたいのかが表れています。 

だからこそ、どこかの国のやり方をそのまま「正解」として持ち込むよりも、違いの背景を理解することが大切なのだと思います。日本の積み上げから学べることもあれば、ニュージーランドの “Balance is Better” から学べることもあります。スペイン、イングランド、ブラジルにも、それぞれ違った角度から育成を考えるヒントがあります。比較の目的は優劣を決めることではなく、自分たちの現場に必要な視点を増やすことにあるのではないでしょうか。 

おわりに

子どものサッカーを見ていると、「もっとやらせたほうがいいのか」「少し待ったほうがいいのか」と迷う場面は少なくありません。そんなときに役立つのは、正解をひとつ見つけることよりも、世界にはいろいろな育成観があると知っておくことかもしれません。 

日本 と ニュージーランド を比べるだけでも、どちらも子どもの未来を大切にしているのに、その方法は少し違います。そして スペイン、イングランド、ブラジル を重ねていくと、サッカーの育ち方には本当に多くの形があることが見えてきます。 

違いを知ることは、迷いを減らすことにもつながります。どの国のやり方が一番かを決めるのではなく、目の前の子どもにとって何が必要かを考える。その視点を持てることが、保護者にとっても指導者にとっても、大切なことなのかもしれません。 

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